顎の関節の脱臼整復

顎関節は、下顎窩と呼ばれる側頭骨のくぼみと下顎頭と呼ばれる下顎骨の突起が、関節円板(板状のコラーゲン繊維)を介して形成しています。関節には、関節包(結合組織)、靭帯、筋等が付着しており、下顎が動き過ぎないように制御しています。
顎関節脱臼とは、下顎頭が下顎窩から前方・後方・上方に動くことで正常な顎関節の運動から逸脱し、元の位置に戻らず関節の運動障害が生じた状態です。
高齢者の場合、顎関節のくぼみ(下顎窩)が平らになり、接する下顎頭が扁平化し、関節円板が薄くなり、関節包や靭帯、付着する筋が弛緩します。こうした形態的・機能的変化によって、下顎頭の可動性増加、位置の不安定化などが生じ、習慣性の顎関節脱臼がみられることがあります。
①原因
顎関節脱臼では、浅い下顎窩、平坦な下顎頭、関節のくぼみ前方部の傾斜などの形態的な異常が原因で生じます。誘発因子としては、過度の開口(あくび、歯科治療、気管内挿管、嘔吐など)、打撲、顎骨骨折、外力の作用などが挙げられます。一部の向精神薬等の服用やてんかん発作なども誘因になることがあります。
②顎関節脱臼の分類
・片側性と両側性
顎関節は側頭骨と下顎骨を結んでおり1つの骨に対して2つの関節が存在します。顎関節脱臼を起こしたのが左右いずれかであれば片側性、両方なら両側性といいます。
・前方・後方・上方
顎関節脱臼の多くは前方脱臼です。後方、外内方や上方への脱臼はほとんどが外傷により生じます。外傷による脱臼では側頭骨や下顎骨の骨折を合併し、神経、血管、靭帯、筋などの損傷を伴うことがあるため、外科的・観血的な処置が必要なことが多いです。高齢者における脱臼では、ほとんどが非外傷性の前方脱臼です。
・完全脱臼と不完全脱臼
下顎窩と下顎頭が全く接触していないものを完全脱臼、一部が接しているものを不完全脱臼といいます。
・新鮮例と陳旧性
新鮮例とは急性の顎関節脱臼のことで、発症してから比較的短時間のものです。
脱臼した状態が3~4週間以上整復されなかったものを陳旧性脱臼といいます。顎関節が脱臼すると顔・顎の違和感や痛みなどを訴えますが、要介護高齢者では症状を訴えることができず脱臼に気付くのが遅れることがあります。長期間経過した脱臼は、関節周囲の結合組織等が器質的に変化し、整復が困難になります。また脳血管障害や認知症、精神疾患、精神発達遅滞、意識障害、無歯顎者で陳旧性が多いとされます。
単純と習慣性
何らかの原因による偶発的なものを単純性脱臼といいます。また加齢などにより関節包、靭帯の緩みが生じ、脱臼を繰り返すものを習慣性脱臼といいます。関節のくぼみの平坦化、合わない入れ歯や奥歯がない状態放置のなども習慣性脱臼と関係していると指摘されています。

症状
顎関節部の疼痛と顎運動の制限が認められます。両側性であればオトガイ部の前方突出、面長な顔貌、両側鼻唇溝の消失、耳前部の陥凹とその前方部の外方への突出が認められます。口を閉じられないため、流涎よだれや発音・構音障害、咀嚼・嚥下障害なども現れます。
また片側性の脱臼では、前述の症状がすべて片側に生じ、オトガイ部の非脱臼側への偏位、交叉咬合(咬み合わせが左右方向にずれる)などが認められます。高齢者や認知症患者など一部の方の場合、顎関節脱臼を起こしても自覚症状を感じないこともあります。

検査・診断
顔貌と口腔内を観察し、両側耳前部の陥凹と関節前方部の頬骨下部に隆起を触れるか、両側臼歯部の早期接触、開口、咬合不全等があるか調べます。
パノラマエックス線などによる画像検査を実施して、下顎頭が下顎窩より逸脱し、前上方に固定されている所見がみられるか等調べます。精査にCTやMRIを用いることもありますが必須ではありません。

治療
新鮮脱臼は疼痛と機能障害が持続するため、できるだけ早期に整復し、一定期間固定する必要があります。精神疾患、精神発達遅滞、運動障害などで徒手整復が困難な場合は、笑気吸入鎮静法、静脈内鎮静法などの全身をリラックスさせる方法を併用したり、全身麻酔下に筋弛緩薬を併用して整復したりすることもあります。
習慣性脱臼は整復しても繰り返し脱臼することが多いため、治療の必要性は脱臼の頻度、脱臼による日常生活やQOL(生活の質)への影響の度合などを考慮します。 前方脱臼の徒手整復法は、以下の2つに代表されます。